Tag: 朝花美穂

兄さ恋唄

白帆の船が荒海越えて 待つひと逢いに江差に着いた 主(ぬし)はしがない 水夫(かこ)ながら 胆(きも)は千両 情けは万両 昨夜(ゆうべ)添い寝に在所が知れた 兄さよ 故郷(くに)は信濃の追分村か 十三七ツ二十歳(はたち)の春に 桜も見ずに売られたこの身 祝儀はずんでくれたなら 徳利転がす踊りもします けれど心は売り物ならず 兄さよ 私(わた)しゃ一途の山家(やまが)の育ち 鴎が一羽 別れの朝に 一声啼いた涙をふけと 今日は浜止め 弁財船(べざいせん) 明日は遠国(おんごく)浪花をめざす 女乗せない北前船か 兄さよ 届くだろうか追分節が

花火草子

あなたご覧よ 無月の空に 今夜限りと 見上げた花火 あれが牡丹で あれが菊 指折り数える遑(いとま)もなくて 消えて行くけど貰った元気 踵(くびす)を返して 出直しましょう あなた 粋でしょ 余韻があるわ 未練残さず 散り行く花火 あれが柳で あれが星 盛りのまんまの姿を残し 悔いを残さず 舞台を降りる あやかりたいね あの潔(いさぎよ)さ あなた 二人が眺める先に 誰も気付かぬ水面の花火 あれが祈りか 鎮魂(たましずめ) 考え直して 家路につけと きっと誰かが背中を押して 勇気をくれたと信じてみましょ

しゃくなげ峠

山裾の紅い燈(ひ) 指差す憂(うれ)い顔 あれが 私(あたし)の居たところ ポツリと洩らした遊女は二十歳 故郷(くに)はどこだと問うのは男 無いのと一緒と答える女 あゝ みちのくの しゃくなげ峠 身の上を語るの 止(よ)そうかお互いに 生まれ在所に居たときも いゝこと一つもなかったからね 涙堪(こら)えて手を引く男 何(なん)にも云わずに頷く女 あゝ みちのくの しゃくなげ峠 道行は不承知 止(や)めろと 蜩(ひぐらし)が 声を限りに啼くけれど 聞き分けない子の 覚悟の二人 死出の旅路を厭(いと)わぬ男 心を任せて紅差す女 あゝ みちのくの しゃくなげ峠

海峡酒場

赤いグラスで 片頬かくし 女がつぶやく 悲しげに 番(つがい)でいるから 雪の日だって 暖かそうね 沖ゆく鴎 春はまだ先 海峡酒場 夢はひととき 深追いしては ますます遠のく ものなのさ 内緒で部屋借り 暮らした月日 秋冬あわせ たったの三月 未練つのらす 海峡酒場 うんと涙の出そうなヤツを ロックで頂戴 女将さん みっとも無いけど 泣かせて欲しい 出来れば明日 この町捨てて 二度と来ないわ 海峡酒場

姉弟役者(新台詞入り)

七歳(ななつ)違いの 弟が 眠い眠いと 駄々こねる 泣いちゃ駄目だよ 忘れちゃならぬ 母と指切りした日のことを 涙こらえて 幕が開く ごめんね、わたしさえ生きていりゃ、 こんなつらい目させなくて、済んだのにねぇ 慣れぬ手つきで 差す紅の 指の細さよ 意地らしさ おまえ踊れば わたしが唄う 父の仕込みの 姉弟(きょうだい)芝居 今は蕾の 華ふたつ すまねぇ、すまねぇなぁ でも、おまえ達を弱い子に育てた覚えはねぇ 負けるんじゃねぇぞ いつかおまえ達の出番が、やって来るからな つらい浮世の 雨風に なんで負けましょ 挫けましょ 親はなくても 頂上(てっぺん)目指し 生きてゆきます 力を合わせ ...

歌姫漫遊記

髪はたばねて編笠(あみがさ) 網笠かぶり 粋な着流し 剣士(さむらい)すがた 月が雲間に かくれた隙に そろりお城をネ チョイトネ抜け出した ひとり腰元 引き連れて 花の歌姫 エーエー気まま旅 殿も手を焼くじゃじゃ馬 じゃじゃ馬なんて 誰のことやら 巷(ちまた)のうわさ 諸国めぐりの 書置き読んで てんやわんやのネ チョイトネ明け烏 どこを吹く風 西東 花の歌姫 エーエー流れ旅 天下泰平大江戸 大江戸離れ さくら吹雪の 峠を越える こころやさしく 喧嘩にゃ強い 茶屋で見かけたネ チョイトネ男伊達 胸もほんのり 紅を差す 花の歌姫 エーエー浮かれ旅